『プリースト 悪魔を葬る者』で、アガトは何を歌っていたか

『プリースト 悪魔を葬る者』に出てくる外国語のテキストを翻訳するブログです。

礼式で使われた外国語の翻訳・解説

小説版、映画のスクリーンショット、シナリオなどを参考して作成しました。

今日は韓国で「검은 사제들黒き司祭達」が公開してからちょうど1周年なので、個人的にはそれを記念する記事でもあります。

まさか本当に1年間ずっと、こんなに好きでいられるとは思わなかった…ありがとう、この映画に関わった皆さん、一緒に話し合ってくださっている皆さん。本当に、ありがとうございます。

 

これから先はネタバレを含みます。十分ご注意ください。

 

※ここからはネタバレを含みます※

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書き取りのノートに、邪霊(字幕には「死霊」も出ていましたが、どっちでしょう?韓国語の読み方ではどちらも「사령」になります。私は邪霊のほうが合ってると思います)の言葉を映していくアガトの手です。

まあ外国語とは書きましたけど、正確には「韓国語以外」のセリフです。日訳は韓国語ではなく、元のセリフに合わせます。

韓国語のセリフも全部入れようかと悩みましたが、字幕とほぼ同じって言いますか、あの悪口っぷりを日本語にどう訳すべきか見当もつかないといいますか…(笑)

実は、キム神父の話し方も字幕ではかなりジェントルになってます。あの荒い言葉遣いを日本語に翻訳するのはとても無理があると思います…

 

 

김신부 : Oculos aperi, vox dei nos appellat.
キム「目を覚ませ、主の声が我々を呼ぶ」

사령 : Verdammter Bach. Ich hatte ihm doch befohlen er solle die Frau seines Bruders vergewaltigen. Bach, Dieser schwanzlose Kastrat.

邪霊「クソッタレのバッハ。私が兄嫁を強姦しろと命令したじゃないか。バッハ、この意気地なしのインポ野郎」

 

*作中流れた曲はバッハのカンタータ第140番、「目覚めよと呼ぶ声あり」(Bach - Cantata 140: Wachet auf, ruft uns die Stimme)です。バッハは信仰心の深い人で、聖書をモチーフとした曲を多々残しました。この曲もそのうちの1つで、歌詞の内容はマタイの福音書の第25章の「10人の乙女の比喩」から取られています。10人の乙女と比喩されるキリスト教の信者たちは、いつもイエスの再臨に備え、目を覚まし、耳を澄ましていなければならない、という意味です。

ちなみに、兄嫁の件はもちろんフィクションです。

 

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김신부 : 거짓말의 아버지이자 태초의 살인자여.
최부제 : Pater mendacis et homicida ab initio.
キム、チェ「嘘の父であり、太初の殺人者よ」

김신부 : 성부와 성자와 성령의 이름으로 묻는다. 어디서 온 것이냐?
최부제 : In nomine Patris et Filii et Spiritus Sancti, ex te quaero. Unde venis?
キム、チェ「父と子と聖霊のみ名によって問う。お前はどこから来た?」

사령 : Nos fuimus etiam hic et ibi. circuivi terram et perambulavi eam. In duomilia quadringenti triginta homine transimus.
邪霊「我らはここにも、あそこにもいた。地を回り、あそこを通った。我らは2430人の人間に移ってきた」

김신부 : 언제부터 이곳에 온 것이냐?
최부제 : Ex quo hic venisti? Dica!
キム、チェ「いつからここに来た?言え!」

사령 : 你们这些猴子数达到三百二十五万四千六百三十只的时候。
nǐmen zhèxiē hóuzi shǔ dádào sānbǎi èrshí wǔwàn sìqiān liùbǎi sānshí zhǐ de shíhou.
邪霊「お前らサルどもが3254630匹になったときだ」

김신부 : 언제까지 여기에 있을 것이냐?
최부제 : 到底想呆到什么时候?
dàodǐ xiǎng dāidào shénmeshíhou?
キム、チェ「いつまでここにいるつもりだ?」

김신부 : 말하라! 언제까지 여기에 있을것이냐!
최부제 : 说! 你到底想呆到什么时候?
shuō! nǐ dàodǐ xiǎng dāidào shénmeshíhou?
キム、チェ「言え!お前はいつまでここにいるつもりだ?」

김신부 : 너는 존재를 들켰다. 거기 있어 봐야 고통만 있을 뿐이다.
최부제 : 你已经被发现了。呆在那儿只会受苦。
nǐ yǐjing bèifāxiàn le. dāi zàinàr zhǐhuì shòukǔ
キム、チェ「お前の存在はバレた。あそこにいても苦痛を受けるだけだ」

사령 : 受苦? 痛苦、病患、饥荒、战争、和平里我一直都跟你们在一起。
shòukǔ? tòngkǔ, bìnghuàn, jīhuang, zhànzhēng, hépíng lǐ wǒ yìzhí dōu gēn nǐmen zài yìqǐ

邪霊「苦痛を受けるんだって?苦痛、病患、飢饉、戦争、平和の中で私はいつもお前らと一緒にいた」

Schaut doch in die Geschichtebücher!
「歴史の本を見てみろ!」

김신부 : 성부와 성자와 성령의 이름으로 묻는다. 왜 여기에 온 것이냐?
최부제 : In nomine Patris et Filii et Spiritus Sancti, ex te quaero. Ad quid venisti huc?
キム、チェ「父と子と聖霊のみ名によって問う。何故ここに来た?」

사령 : Res cogitans, obsculta. Videre hominem in vita vera dissimulando vivis! Formica homo sapiens!
邪霊「分別のある者よ、聞け。他の見えない人間どもみたいに生きろってんだ。蟻のようなホモ・サピエンスめ!」

김신부 : 사령들은 말하라.
최부제 : Dica!
キム「邪霊どもは言え」
チェ「言え!」

김신부 : 왜 여기에 온 것이냐?
최부제 : Ad quid venisti huc?
キム、チェ「なぜここに来た?」

사령 : Wir sind gekommen um euch zu zeigen, dass ihr nichts als Affen seid. Homo sapiens, sapiens! Sapiens!
邪霊「我らはお前らがサルに過ぎないということを証明しに来た。ホモ・サピエンス、サピエンス!サピエンス!」

김신부 : 너희들이 지키고 있는 가장 큰 놈은 누구냐?
최부제 : Quem maiorem protegis?
キム、チェ「お前らが守っている一番大きな者は誰だ?」

사령 : 你们这些毛类绝不能听到落星的声音。
nǐmen zhèxiē máolèi juébùnéng tīngdào luòxīng de shēngyīn.
邪霊「お前らごとき微物には、落ちた星の声を聞くことができない」

*「落ちた星」というのは、ルシファーを意味すると思われます。堕落した天使として有名な、悪魔の代表と言っていい名前ですね。イサヤ書の第14章12節、「 黎明の子、明けの明星よ、あなたは天から落ちてしまった。もろもろの国を倒した者よ、あなたは切られて地に倒れてしまった」の「明けの明星」のことです。しかし、これは聖書をラテン語に翻訳する際に起こった間違いだという記事を結構見つけましたので、ルシファーを堕天使の長として見るのはあまり正統的な見解ではないかも知れません。

 

김신부 : 그가 이미 세상을 승리했노라! 왜 거기에 있는 것이냐!
최부제 : Ipse iam triumphavit in mundo. Quidnam illuc es?!
キム、チェ「彼自身がすでにこの世を勝利した!なぜあそこにいる?」

사령 : Ich verstecke mich nur. Erwischen lass ich mich nimmer mehr. Paaren muss ich mich. Paaren!
邪霊「隠れてるだけだ。もう2度とバレるものか。オスが必要だ、オスが!」

*シナリオによるとPaarenですが、ドイツ語でPaarenは「ペアを組む」という意味で、オスという特定の性別の意味はありません。どういうことでしょう…

 

김신부 : 어둠은 물러나고 이제 그의 날이 올 것이다!
최부제 : Nunc tenebrae evanescent et dies eius perveniet!
キム、チェ「やがて闇は立ち退き、彼の日が来るであろう」

김신부 : 들어라! 너희를 호통치는 그들의 목소리를!
최부제 : Audi vocem eius qui vos appellat!
キム、チェ「聞け、お前らを呼ぶ彼の声を!」

마르베스 : Mas! Mas!
マルベス「オス!オス!」
Reformida! Reformida!
「怯えろ!怯えろ!」

김신부 : Miserere, Domine.
キム「主よ、憐み給え」
마르베스 : Odivi vos! Lucem mundi extinguere veni!
マルベス「お前らが憎かった、私は世界の光を消しに来た」
최부제 : Dica nomen tuum quod tu vocaris!
チェ「お前が呼ばれる名を言え!」
김신부 : Dica nomen tuum!
キム「お前の名を言え!」

*マルベスの「私は世界の光を消しに来た」は、ヨンシンが歌っていた聖歌「私は世界の光です」を連想させます。世界の光であるヨンシンと、彼女に憑かれて「光を消しに来た」マルベス。原曲のリンクを貼っておきます。

 

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以上です。

ちなみに、映画で描いた悪魔祓いの礼式についてコメントを足しますと、チャン監督が独自で調べた悪魔祓いの内容とはずいぶん差があるようで、アガトがやったように言語を訳してしゃべるとかの過程はないそうです。韓国の伝統的な祓い(巫女の少女と彼女の父、白衣の女性たちが行ったような儀式)をモチーフにしたらしく、アガトに巫女の役割(神の言葉を訳す、媒介となる人間)をさせたというわけです。そういう表現をすればキム神父も巫女の役割をしていますが、チャン監督曰く「キム神父は世襲巫(チョン神父から受け継いだ)、アガトは降神巫(過去の業のために神憑りに遭った)」だそうです。

あと、私のニックネームのDicaはもちろんここのセリフから取っています(笑)最初ツイッターのアカウントを作る際にパッと思いついたものを今でも使っています。